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二人の朝は早かった。
まだ夜が明けきらぬうちに起き出すと、ラナンが近くで水を汲んできてくれた。今日一日のガレベーラの飲み水だと言った。
「屑拾いは朝早い方が有利なんだ」
「だれかにひろわれるまえにひろうの!」
ガレベーラは足の傷がひどく、ろくに歩けそうもないので、留守番を任された。
「できるだけ早く帰ってくるよ」
「あたしはおはなをうるんだ」
「ペルラがお花を?」
「パンがかえるようにがんばるね! おきぞくさまがかってくれますように!」
「そう……、頑張ってね」
不安な気持ちで二人を見送る。
何もなしに道端にうずくまっていた時のことを思えばずいぶん気分はましだったが、朝食などあるわけもなく、働きに出かけた二人も何も食べていない。
街の活動が始まり、表通りの道行く人を見ていたが、あまり気分はすぐれず、いつのまにか眠っていた。
いつか元の生活に戻れたら、貴族に戻れたら、こうしよう、ああしようとそんなことを夢か現か考えていると、ペルラが帰ってきた。
陽はずいぶん西に傾いていた。
「ひとつしかかってもらえなかった」
銅貨が一枚、小さな掌に載っている。
遅れて帰ってきたラナンも大した収穫はなかったらしい。
「ガレ、ごめん。今日もパン一つだ」
「わたしこそ、ごめんなさい。二人ならそれを半分こすればいいのに、わたしのせいで少なくなってしまうもの。早く、わたしも手伝うわね。針仕事は得意なんだけど……」
「針仕事は難しいな」
「そうよね、針と糸もないものね」
「そうじゃなくて、そういう立派な仕事は、ちゃんと家がある人たちがするものだから……。俺もほんとは煙突掃除に雇ってもらいたいんだ。でも、俺たちみたいな子どもは仕事をもらうこともなかなか難しいから」
ガレベーラが今まで『労働階級』とひとくくりにしていた人たちにも、いろいろ程度があることがなんとなくわかってきた。
ラナンとペルラがいかに厳しい生活にあるのかも。
今日見かけた子どもたちは靴を履いていた。
きっと、この二人はそこにも届かない貧しさなのだろう。
「では、ペルラと一緒に花束を作って売るわ。明日、教えてね」
ガレベーラは明るく言う。
「うん! どっちがたくさんうれるかきょうそうだよ!」
しかし、次の日の朝、花束を作ることはなかった。
ガレベーラはひどい熱を出したのだ。
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