2.路上生活

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 ラナンはどこかから毛布を集めてきて、熱にうなされるガレベーラの身体の下に重ねて敷き、上からもかぶせてくれた。  それでも震えが止まらず、呼吸が乱れる。 「ラナン……、ペルラ……、迷惑をかけてごめ、んなさい……」  必死に看病をしてくれる貧しい兄妹に申し訳なくて、ガレベーラは息も絶え絶えにうわごとで何度も謝った。 「ガレ、薬をもらってきた! 果物もあるから!」  ラナンが、ガレベーラの身体を起こして、口に入れてくれる。  口に含んだ果実は今まで食べたどの食べ物よりもおいしかった。  熱い身体に冷たく甘い果汁がしみこんでいく。 「ガレ、ガレ、だいじょうぶ? しなないで……」  ペルラが泣いている。  茶会の際、城下で致死率の高い感染病が流行っていると婦人方が噂していた。  ガレベーラの熱がもしそれだったら、幼い二人にうつしてしまうかもしれない。  うつらなくても、死んで迷惑をかけるくらいなら、橋の上から飛び降りておけばよかった、そんなことを考えていた。  高熱は三日続いたが、目が覚めた時、ガレベーラは生きていた。  ガレベーラはかよわい令嬢ではなかった。どちらかというと丈夫な身体の持ち主で、過去にも風邪や病気で寝込んだ記憶はほとんどない。 「子どもがたくさん死んでいくのをみたから……。ガレもそうなるんだっておもって……」 「ペルラ、心配をかけてごめんなさいね。平気よ、生きてるわ」 「よかったぁ」  抱きついてきたペルラを抱きしめた。 「ところで、ラナン。お薬や果物なんてどうしたの?」  起き上がれるようになったガレベーラは気になっていたことを訊ねた。  路上で生活する者にとって医者にかかることはもちろん、薬も高価であろうことはガレベーラにもわかる。  果物にしても同様だ。 「知り合いにもらった。病人がいるって頼んだらくれたんだ。果物も」 「そうなの? その方にお礼を言わなきゃね」 「いいよ、俺が言っておくから」 「わたしのためにありがとう」  ガレベーラは次の日には歩けるようになり、そして、その次の日、ようやくペルラと約束した花売りにでかけたのだった。
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