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ラナンはどこかから毛布を集めてきて、熱にうなされるガレベーラの身体の下に重ねて敷き、上からもかぶせてくれた。
それでも震えが止まらず、呼吸が乱れる。
「ラナン……、ペルラ……、迷惑をかけてごめ、んなさい……」
必死に看病をしてくれる貧しい兄妹に申し訳なくて、ガレベーラは息も絶え絶えにうわごとで何度も謝った。
「ガレ、薬をもらってきた! 果物もあるから!」
ラナンが、ガレベーラの身体を起こして、口に入れてくれる。
口に含んだ果実は今まで食べたどの食べ物よりもおいしかった。
熱い身体に冷たく甘い果汁がしみこんでいく。
「ガレ、ガレ、だいじょうぶ? しなないで……」
ペルラが泣いている。
茶会の際、城下で致死率の高い感染病が流行っていると婦人方が噂していた。
ガレベーラの熱がもしそれだったら、幼い二人にうつしてしまうかもしれない。
うつらなくても、死んで迷惑をかけるくらいなら、橋の上から飛び降りておけばよかった、そんなことを考えていた。
高熱は三日続いたが、目が覚めた時、ガレベーラは生きていた。
ガレベーラはかよわい令嬢ではなかった。どちらかというと丈夫な身体の持ち主で、過去にも風邪や病気で寝込んだ記憶はほとんどない。
「子どもがたくさん死んでいくのをみたから……。ガレもそうなるんだっておもって……」
「ペルラ、心配をかけてごめんなさいね。平気よ、生きてるわ」
「よかったぁ」
抱きついてきたペルラを抱きしめた。
「ところで、ラナン。お薬や果物なんてどうしたの?」
起き上がれるようになったガレベーラは気になっていたことを訊ねた。
路上で生活する者にとって医者にかかることはもちろん、薬も高価であろうことはガレベーラにもわかる。
果物にしても同様だ。
「知り合いにもらった。病人がいるって頼んだらくれたんだ。果物も」
「そうなの? その方にお礼を言わなきゃね」
「いいよ、俺が言っておくから」
「わたしのためにありがとう」
ガレベーラは次の日には歩けるようになり、そして、その次の日、ようやくペルラと約束した花売りにでかけたのだった。
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