プロローグ

3/12

269人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
「トーロ夫人はまたお見えにならなかったわね」  ここにいない人物の話題が出て、ガレベーラは困った顔で首を傾げた。 「それが、お誘いはしているのですが……」 「あの方はそれどころではないのでしょう。未亡人になられてから、ほら、大変だと聞きますし」 「最近お召しになっているドレスもあまり流行のものではないしね」 「お屋敷を辞めさせられるメイドも多いとか。給金が払えないとかで」 「食事も切り詰めておられるそうよ」  婦人たちは次から次へと話を大きくしていく。  困ったことだが仕方がない。彼女たちは、花と茶と菓子と、そしてなにより噂話が大好きなのだ。  しかし、時間を財力を持て余し、気を配ることがそれの他にない婦人たちには仕方のないことだ。  良くも悪くも社交界を中心に回るのが貴族社会であり、そこで生きていくための人間関係の維持に情報網は必要でもある。 「トーロ夫人もお一人で家政を取り仕切っていらっしゃるのですから、色々とお忙しいのかもしれませんわ。それに、慈善のお考えはみなそれぞれでしょうから、今日、ここに志をお持ちになってお集まり下さった皆さまで、今できることをやればよいのではございませんか」  話題を打ち止めるべく、ガレベーラは刺繍の手を休める。 「それより、珍しいお茶を用意しておりますの。いかがかしら」  にわかに婦人たちが顔を輝かせた。  場の雰囲気が変わったことに胸をなでおろして、ガレベーラはメイドを呼んだ。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

269人が本棚に入れています
本棚に追加