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「トーロ夫人はまたお見えにならなかったわね」
ここにいない人物の話題が出て、ガレベーラは困った顔で首を傾げた。
「それが、お誘いはしているのですが……」
「あの方はそれどころではないのでしょう。未亡人になられてから、ほら、大変だと聞きますし」
「最近お召しになっているドレスもあまり流行のものではないしね」
「お屋敷を辞めさせられるメイドも多いとか。給金が払えないとかで」
「食事も切り詰めておられるそうよ」
婦人たちは次から次へと話を大きくしていく。
困ったことだが仕方がない。彼女たちは、花と茶と菓子と、そしてなにより噂話が大好きなのだ。
しかし、時間を財力を持て余し、気を配ることがそれの他にない婦人たちには仕方のないことだ。
良くも悪くも社交界を中心に回るのが貴族社会であり、そこで生きていくための人間関係の維持に情報網は必要でもある。
「トーロ夫人もお一人で家政を取り仕切っていらっしゃるのですから、色々とお忙しいのかもしれませんわ。それに、慈善のお考えはみなそれぞれでしょうから、今日、ここに志をお持ちになってお集まり下さった皆さまで、今できることをやればよいのではございませんか」
話題を打ち止めるべく、ガレベーラは刺繍の手を休める。
「それより、珍しいお茶を用意しておりますの。いかがかしら」
にわかに婦人たちが顔を輝かせた。
場の雰囲気が変わったことに胸をなでおろして、ガレベーラはメイドを呼んだ。
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