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『ガレベーラは全部綺麗だけど、僕は、髪が特別美しいと思う』
肌の白さや瞳の色に始まり、歌や楽器やダンス、朗読や刺繍。
非の打ち所がない容姿や身に着けた教養はごまんとあったが、ガレベーラの人生のおいて、人から褒めそやされることが多かったのはその髪だった。
当然に、グウィディウスもガレベーラの髪を見てよく美しいと言った。
密かな口づけを受けたあの日、初めてその手でガレベーラの銀の髪を梳いたとき、「今ここで死んでも悔いはないよ」とそう言った。
*
「ガレ! その髪、どうしたんだよ!?」
ガレベーラの髪を見て、ラナンは叫ぶようにそう言った。
髪だけ見れば、まるで少年同士のようだ。それくらいに短くなった。
「長くて邪魔になったの。聞けば、売れるというから」
ラナンは怒ったけれども、ガレベーラは満足していた。
悲しくはなかった。
むしろ、身軽になって、ようやく生まれ変わったようにも感じていた。
ガレベーラの髪は銀貨二枚になった。
ラナンは服の下に、母親の形見が入っていると言う小さな布袋を首から下げている。
銀貨二枚のうち一枚は、その中に入れて持っておくように言った。
断られたけれど、受け取らなければ川に捨てると言ったら、しぶしぶ巾着の口を開けてくれた。
残りのもう一枚は、ラナンとペルラに靴を買って使った。
もちろん新品ではなかったけれど、二人は喜び、履いて踊って見せてくれた。
「ガレ、起きてる?」
その夜、ペルラが寝た後、ラナンが声をかけてきた。
すやすやと、靴を抱いて眠っているペルラからそっと離れて、寝床から出る。
最近は、中を隠すように入口でラナンが横になってくれている。
「どうしたの? 眠れない?」
ラナンはしばらくしてから、言った。
「俺たちの母さんは身を売ってた。それで病気になって、死んだ」
「そうだったの。辛かったわね……」
「髪はもう売ってしまったから仕方がないけど、身は絶対に売らないって約束して。俺が、食べるものを見つけてくるから、ガレは絶対に……」
「ありがとう……」
売れるものがあるうちはと老婆に言われて、いつかはそんな日が来るのかもしれないと、今日覚悟した。
その時は、少なくとも王都は出て行こうと人知れず誓っている。
グウィディウスや父の尊厳を守るためだ。
娼館ともなれば、紳士の出入りもあるだろう。
いつ何時、身元が明らかになっておもしろおかしく騒ぎ立てられることがないとも限らない。
それでも生きていたいと思うのか、その時にならないとわからない。
けれど、今はこの子たちと生き抜いてみたいと思えたのだ。
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