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ある日、ガレベーラは街の様子がいつもと違うことに気づいた。
自警団のような制服をきた集団や、身なりのいい紳士がやけに多く歩き回っている。
「今日は騒々しいね。なにかあったの?」
花売りの途中にいた顔見知りの物乞いにたずねると、
「人探しじゃろうて」
「人探し?」
ガレベーラ自身、すっかり昔の身分は忘れていた。
日々がそれどころではなかったことも大きかったし、もはやあらゆることを諦めていた。
ないものを頼りにすることの儚さや希望を持って裏切られた時の悲しみは二度と味わいたくはなかったのだ。
それでも、人探しという言葉には心がざわついた。
期待というよりは、安寧を脅かされる恐怖に近かった。
いくら姿、身分が変わろうと、嫁ぎ先へ行く馬車から逃げ出したことを思えば、お尋ね者であることに変わりはない。
嫌な予感は的中する。
心落ち着かず、道端に座って花を束ねていると、自警団の会話が聞こえてきた。
「全部の家を見て周れって無茶なことを仰るねえ」
「カトル家の姫さんがこんな下層住宅にいるわけきゃねえだろうが」
家名に身体が強張る。
「銀の髪にアイスブルーの瞳だってさ」
「お姫様、ガレといっしょ?」
無邪気に問うペルラを咄嗟に抱き寄せて「静かに」と囁く。
ガレベーラは先よりも深く俯いた。
頭は頭巾をかぶっているので、髪の色まではわからないはずだ。
青ざめた顔で立ち上がり、なんとか住処までたどり着くと、ラナンが待っていた。
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