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そのとき、近所に住む煙突掃除夫のベンが顔をのぞかせた。
「おい、ラナン! いるか?」
「ああ、いるよ。どうした?」
「明日にも路上生活のやつらのとこに見回りがくるらしい。親方が言ってた。ガレは銀髪で瞳はブルーだろって。……役人が探し回ってるのって、ガレのことなのか?」
「ええ、わたしのことよ……」
ガレベーラが前に出ると、ベンは腰に手を当てため息をついた。
「そっか。まずいな。王都中、探して見つからなかったら山狩りもするって……」
ラナンは苦悩の表情を浮かべたが、すぐにまっすぐな視線でベンをみつめた。
「……どこか隠れられるところはないかな」
「地下道も役人のやつらは知ってるしな。そうだ、見回りの終わった家に置いてもらうのはどうだろう」
「それなら大丈夫かも。二度も探しにこないはずだ。でも俺たちみたいなのを匿ってくれる家があるかどうか」
「それはまかせろ、俺が親方に……」
「待って! 無理よ」
ガラベーラは少年二人の話に割って入る。
しばらくの間、四人の間を沈黙が支配していたが、やがてガレベーラは意を決して顔を上げた。
「みんなに、これ以上迷惑をかけられない」
見つかったとして、自分自身の処遇などはどうでもよかった。
しかし、ラナンやペルラ、近所の子どもたちを巻き込んでしまうかもしれない。
あらぬ疑いや罪を着せられることもあるだろう、いやあるに違いない。
貧しく、無力な子どもたちの社会での扱いを、この目で見てきたのだ。
貧民に人権などない。虫やもの同然の、人でないものとして扱われている。
「わたしが王都を出るわ」
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