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「やだ! 行かないで、ガレ……」
ペルラはすでに半泣きだ。
ガレベーラは跪き、涙のいっぱい貯まった目を二人の目線に高さに合わせた。無言のまま、二人と視線を交わす。
二人を置いていきたくない。幼い二人を残して自分だけ街を出ることなどできない。二人と共にこれからも暮らしたい。
連れていけるだろうか。なんとななるだろうか、この街でなんとかなったように。
否、なるわけがない。
どこにどうやって行くのか、行く当てもすらもないというのに。
ラナンが拳に力を入れ、さらに強く握った。
ベンに向かって、
「さっき聞いたんだけど、人買いの馬車が出るのが今夜だって」
「ああ、そうだぜ! そうか! ガレをあいつらの中に紛れ込ませれば……。なんて幸運なんだ! 神様のお導きってやつだな!」
ベンとラナンは二人頷き合い、ガレベーラに向き直った。
「少し待ってて。話をきいてくるよ」
そう言って、二人の少年は走って出て行った。
残されたガレベーラは、
「ペルラ、今着ている服を頂いたお屋敷、わかるわね?」
「……わかる」
ガレベーラは優しく頷き、
「季節に一度でいいから、あのお屋敷に行ったときに、グウィディウス様はお戻りですかと尋ねてみて」
「グウィ……ディウス、さま?」
「わたしの友人なの。でも今は遠いところで勉強をしていてるのよ」
「グウィ……、なんとかさまはいつかえってくるの?」
ガレベーラはもう一度、ゆっくり「グウィディウス」と繰り返してやる。
「わからないの。だから何度も尋ねてみて。いつの日か、お戻りですよと言われることがあったら、これを奥様にお渡してもらって」
ガレベーラはペンダントを外して、ペルラに握らせた。
「きれい! ほうせき?」
「失くさないように。グウィディウス様があなたたちを助けてくれるかもしれないから」
そして、身に付けていた布袋を渡す。
そこには、髪を売って靴を買った余りの銅貨がいくらか入っている。いつか、なにかのためにと蓄えていたものだ。
「それまでに、おなかがすいて死にそうになったら、これで食べなさい」
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