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「買われて王都に働きに来ていた子どもが年季明けで帰る季節で、その馬車が出るのがちょうど今日なんだ」
しばらくして帰ってきたラナンはそう言った。
「町や村を順番にまわるらしいから、適当なところで降りればいい」
「やだやだ! いかないで!」
「ペルラ、聞き分けろ。相手が貴族なら、どこまでガレを隠しおおせるかわからない。ガレが捕まって、辛い目に遭ったらいやだろ? 遠くない村ならいつかまた会えるよ」
「ほんと?」
「ガレ、馬車が出る。急ごう」
もとよりガレベーラに荷物などないが、ラナンはどこで手に入れてきたのかパンやチーズ、そして毛布を袋に入れて、旅支度をしてくれた。
ガレベーラは別れを前に、気持ちを上手く言えないでいた。
というよりも、涙を堪えるのに必死だった。
「ガレ、俺たちのことなら心配しないで」
「でも」
「もともと二人だったんだよ?」
「……そうよね、わたしの方が十分二人のお荷物だったわよね」
なんとか笑おうと努めた。なんとか笑って言う事ができた。
「違うよ、俺たちも一緒に行きたいけど、足手まといになるから」
「違うわ、そんなことない!」
ガラベーラは二人を抱きしめた。
「ラナンたちがいてくれから、わたしは今生きてるのよ」
二人だけこの街に残すことが心配で、一緒に連れて行きたいなどというのは建前だ。
本当は、ガレベーラが二人と離れたくないのだ。
「ガレ、気をつけて。字を教えてくれてありがとう」
ラナンも必死に涙を堪えた顔で、笑った。
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