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馬車の荷台に詰め込まれるように座る子どもたちは、みんな貧しそうだったが、笑顔だった。
故郷に帰れるからだろう。
勝手にその中に潜り込んでいるガレベーラは、頭巾を深くかぶって、小さくなっていた。
だんだんと日が暮れていく。
馬車に揺られていると、だんだん寂しさが募り、涙が出てきた。
この先の不安よりも、あるのは寂しさだった。
ラナンとペルラは、もはや家族だった。
貧しくとも、ひもじくとも、過ごした時間は確かに幸せだった。あたたかかった。
ふと、ラナンが荷造りをしてくれたことを思いだして、袋を開く。
「え……」
ガレベーラは瞠目する。
ラナンがいつも首から下げていた小さな布袋が入っていた。
「こんな、大事なもの……!」
慌てて取り出し、中を開けると、亡くした母の形見であるはずの銀の指輪と、そして、銀貨が一枚入っている。
ガレベーラの髪の対価である銀貨だ。
二人が少しでも楽に暮らせるように、もしもの時の助けになるように、せめて銀貨を置いてこられたことで、納得し、安堵もしていたのに。
なにより、兄妹にとってこの指輪は大切なものだ。
それを質にして、必ずもう一度会えるようにと、ラナンはそう願ってくれたのだろう。
とうとう、ガレベーラは声を押し殺して泣いた。涙が止まらなかった。
「ラナン、ペルラ、待っていて……いつか」
馬車は峠にさしかかっている。
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