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「私に西での仕事をください」
団長室に入るや、開口一番そう言ったグウィディウスに、目の前の男は目を丸くしてから、すぐに眉をひそめた。
王城騎士団団長は見た目は熊のようであり、鍛錬も厳しいことで有名だが、普段は明朗快活な男であった。
任務遂行には容赦がないが、礼儀はあまり重んじない、というより面倒なのだろう。
「あのなぁ……」と団長はふんぞり返って、丸太のような腕を組む。
「帰還報告がまず先だろ。だいたい、行って帰ってきたばかりだというのに、何べん視察に行くんだ」
「わかってます。では休暇を下さい。頂けないのなら騎士団を辞めます」
「ちょっと待てって」
団長は派手にため息をついて、
「俺もデヴンに話は聞いた」
「では、私の言いたいことはおわかりのはずです」
「わかってるわかってる。わかってるが、ガレベーラ嬢ご本人かどうかはまだ確かではないんだろう? だいたい、都落ちした馬車は南行きだったはずじゃないか。それがどうして西にいるんだ」
「そんなこと私にもわかりません。ただ、この三年、南は手を尽くして探しましたが手がかりすら掴めませんでした。ということは、西に行ったかもしれないということです」
「……お前にかかると、すべてに可能性を感じられるよ」
団長はこめかみを、手にしたペンで何度か突いてから、
「まあ、待て。落ち着け。お前が西に行ける大義名分を何か考えてやるから。そこで休暇を二日やる、それでいいだろ」
「ありがとうございます」
グウィディウスは敬礼をする。
「まあ、そのために騎士団に入ったってのはわかってるが、簡単に辞めるなんて言わないでくれよ。今ではお前の腕を、けっこう頼りにしてるんだからな」
「……ありがとうございます」
二回目の感謝は、本心からのものだった。
敬礼ではなく、深く礼をする。
「私は、今夜にでもまた西へ出られますので。では失礼します」
「おいおい、いくら何でもそれは疲れ……って、おい、グウィ! 報告がまだだ!」
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