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「宿屋の親父にたずねたら、皿洗いの手伝いの少年らしかった。宿泊客が忘れて行った本があったから、それをやったと言っていた」
「それで?」
「その時は気づけなかったんだ。すまん。ただ、少年というには線が細いなという印象を持った。しかし、貧しさのあまり痩せこけた子どもなどたくさんいるし、気に留まるほどではなかった」
グウィディウスは頷く。確かにそうだ。
「けど、それからもずっと何かが引っかかってさ。帰り道、ふいに馬上で閃いた。俺も、昔に何度もガレベーラ嬢のお姿は拝見しているから顔は知ってる。ただ、少年だとは思わない。俺たちはあくまでも女性を探していたからさ。俺にもう少し勘の良さがあればね。すまない」
「瞳は? 髪の色は?」
「夜だったし、瞳は長い前髪に隠されてよく見えなかった。帽子もかぶっていたし、髪が何色かと問われれば、情けないが、赤毛ではなかったと言えるくらいだ」
「そうか……」
「だから、確かではない。本人かもどうかはわからない。可能性としてはあるというだけだ」
「……いや、十分だよ。感謝する」
デヴンは、黙って考え込むグウィディウスの背中を軽く叩いた。
「逸る気持ちはわかるけど、女性の場合、名誉の問題がある」
「ああ、わかってる」
デヴンが王城に直属の騎士団の人間だとわかっただろうに、助けを求めてもいない。
少年の姿をしていることも含めて、そこには何らかの事情や理由があるのだろう。
「グウィ」
デヴンが意味深な視線を寄こしてきたかと思うと、
「いきなり抱きついたりするなよ?」
「するかよ」
そこでグウィディウスはようやく、笑うことができた。
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