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婚約していた姫が消えたとの報せが、グウィディウスのもとに届いたのは、実際にいなくなったと思われる日からすでにふた月が経っていた。
グウィディウスは母国から遠く、海を隔てた異国の地でそれを知ったが、帰ろうにも帰れなかった。
幸い、研究はあらかた終わっていたから、留学の終了期限を早めるように願い出たが、それでも帰国までに半年がかかった。
あの時の、いてもたってもいられない、もどかしいまでの苦悩は、今も思い出すたびにグウィディウスの胸を苦しくさせる。
王子であったグウィディウスに、例えば王城の騎士団はもちろん、動かせる権限を持つ私的な集団などもなく、できることと言えば、母国に残した側近と、兄のアルディウスに手がかりを探すよう頼むしかなかった。
手紙を出しても、その返事が届くまでもゆうにひと月はかかる。
情報は全てにおいて時差があった。
王太子アルディウスは、行方知れずになる前のガレベーラに、便りを送っても返事の一つもないことを不思議に思っていた。
遠い海の向こうでグウィディウスも、ガレベーラ本人から、父侯の急逝の知らせがないことを不審に思っていた。
何度も手紙を出していたがそれに対する返事も届かない。
気落ちし、体調でも崩し寝込んででもいるのかなどと、のんきな心配をしていた自分を呪った。
後にわかったことだが、ガレベーラが出した、あるいはガレベーラに届いた手紙のすべては継母によって抹消されていたらしい。
手紙の返事がないことを嘆くグウィディウスに、側近であったペスロはガレベーラの身辺を探り始めた。
そこで、ガレベーラが北の辺境に嫁ぐらしいとの噂を聞いたペスロは、外国にいる主からの指示を待っている場合ではないと判断し、兄王子であるアルディウスに相談した。
しかし王子が一貴族の婚姻に口を出すことはできない。
アルディウスは、ガレベーラがかつて妃候補だった立場を利用し、とにかく急いで王宮で保護しようと考えた。
建前は側妃候補として、城に迎えようとした矢先、継母が強行手段に出たのだ。
そして、北に行く馬車からガレベーラは逃げ出した。
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