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出されたリビの料理は、芋を使った料理が多かった。
味付けも素朴で、王都ではあまり食べたことのない味だ。
食べ終えた皿を下げに来た主人に、グウィディウスは、
「皿洗いの手伝いは足りてる?」
「今夜は見ての通りご宿泊のお客さんも少ないんでね」
「今夜は手伝いの子はいないの?」
「ああ。ギーのことですかい? あいつは、大口のお客さんがあるときだけですから。ギーのことをご存知で?」
「ギー……、って本が読める子?」
「ええ、そうですが……」
主人は不思議そうに首をかしげた。
「いや、この辺りで、子どもで字が読めるとは珍しいなと思って」
「ああ、そうなんですよ。何年か前に、村の神父様が拾ってきたんですがね。顔もなんとも上品な顔をしとるんですわ。色も白っこくて。だから、都のお貴族様のご落胤かなんかじゃないかって」
ここだけの話ですけどね、と声を潜める店主の言葉に、グウィディウスはペスロと静かに視線を交わした。
「……読み終わった本があるんだが、彼は読むだろうか」
「ああ、そりゃ喜びますぜ! 本なんて高価なシロモノ、この辺りじゃお目にかかれませんから。ま、もっとも、あっても読めねやしねえから誰も喜びやしないですがね。明日にでもギーの奴に取りにこさせやしょう」
部屋に戻るや、ペスロが目を赤くして言った。
「……グウィディウス様、とうとうやりましたね。ガレベーラ様は生きておられたんですね……」
「おいおい、まだ決まったわけじゃない」
思わず苦笑が漏れる。
しかし、グウィディウスは密かに手の震えを隠せなかった。
「明日まで待たず、今すぐその少年とやらを訪ねましょう」
「おいおい、もしその『ギー』がガレなのなら相手はレディなんだぞ? こんな夜更けにそれはだめだろう」
「グウィディウス様、この期に及んで、もはやレディーもなにもあったもんではないでしょう……」
「確かにそうなんだが……」
まだ、何一つガレベーラたる証はない。
この村にいるのは、本の読める上品な顔立ちの『少年』でしかない。
それでも、帰国して三年間、探し続けて、ようやく見えた希望なのだった。
反面、怖くもあった。
拒絶されることもあるかもしれないこと、全くの人違いだった場合のこと。
疲労は溜まっているはずだったが、眠れるわけがなかった。
グウィディウスは窓を開け、王都から遠く離れたリビに広がる星空を、長い間見上げていた。
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