プロローグ

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 ガレベーラは継母に愛されてはいない。  母亡き後、父は再婚し、すぐにシミラが生まれた。それが理由なのか定かではないが、いや、シミラが生まれるまでの二年間の間にも、継母からの愛情らしきものを感じた記憶はない。  眠れない夜に共に寝てもらったり、絵本を読んでもらったり、寂しいときに抱きしめてもらったり、そういうことをガレベーラの知る『母親』はやっていたものだが、そんな記憶はないし、父のいないところでは笑いかけられることはおろか、話しかけられることさえないのは今も変わらない。  我が家の母子関係が冷ややかなものだとやがて気づいても、幼いながらにもそれは口に出してはいけないことなのだと肌で感じていた。  父は今も昔も変わらず愛してくれるているし、ある程度の自由も与えられ、何不足ない暮らしは続いている。  夜会や社交界へも遠慮することなく行けるし、たとえば結婚や恋愛に口出されることもない。  巷の小説のように冷遇されているわけではなく、あからさまに虐げられることもなかったので、余計な心配をかけないためにも父に訴えるようなことはしなかった。  誰にも詳しく言ったことはない。  打ち明けていれば何か違ったのだろうか、とガレベーラは後に考えたが、その答えはわからない。    ただ、傍目に見れば何の問題もない、豊かで幸せな家族だった。  少なくとも、社交界においては、良き父と良き母、争いのない二人の姉妹、と評価されている。  どのみちガレベーラは遠くない将来、嫁いで家を出ていく。  男子のいないカトル家の莫大な家督はシミラが継ぐ。そうなることで、このいびつな関係は解決するのだとガレベーラは思っていたのだ。
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