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時折、風がさわさわと丘を撫でていく音だけが聞こえ、グウィディウスもしばらくの間、その草と一緒になって吹かれていた。
仕事は朝が早いらしい。
世話をする姿に家畜への愛情が伝わってきた。
ちゃんと食べているのだろうか。
小屋の隣に、赤い屋根の、この辺りでは十分大きな屋敷と言えるにちがいない家が建っている。
ガレベーラと思しきあの少年は、あの家に住んでいるのだろうか。
どのような扱いを受けているのだろう。
食事は十分にとれているのか。
むごい仕打ちに遭ったりはしていないだろうか。
「グウィディウス様」
どれくらいの時間そうしていただろう。
ペスロの声がかかる。
「彼……は使用人ということでしたので、どこまでガレベーラ様が家事をなさっているのかわかりませんが、これからの時間はお仕事で忙しいでしょう。お会いになるのは難しいかと存じます」
「……そうだな」
ようやくのことで踵をかえし、互いに、無言で宿まで戻った。
駆けだした馬の背で、舌をかまないよう、グウィディウスはきつく歯を食いしばった。
*
「ギーが働いている家というのはここを左に出て、一本道を行ったところの赤い屋根かな?」
朝食の席で、主人にたずねる。
「そうですぜ。なんだ、行きなさったのですかい?」
「朝早く目覚めてしまったものだから朝駆けにね。そしたらちょうど牛飼いの少年を見かけたけど」
「ああ、そいつがギーです。貧弱で声も小せえでしたでしょう? 女みたいな奴でさぁ」
「いや、見かけただけで話はしていない。後で本を渡しに行ってもいいだろうか」
主人は、なぜギーにそこまで、といったふうの不思議な顔をしてから、
「ああ、それならそのうち牛の乳を売りに来ますで。そのときにお声がけしますよ」
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