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「神父様、こんにちは」
「ギー、ようこそ。今日も労働、ご苦労様」
立ち寄った教会で、神父はいつもの穏やかな顔でガレベーラを迎えてくれた。
「林檎を頂いたので、みんなにと思って。まあ、食べ飽きているでしょうけれど」
「ギーの隣人愛に、飽きるなどの贅沢が言えましょうか。ありがたく頂きましょう」
神父は押しいただくように受け取ってから、籠の中の林檎を一つ取り、「これはあなたの食事に」とくれる。
今も毎日の食事が十分にあるとは言えないガレベーラにはありがたいことだ。
神父に分けてもらったものならば、ガレベーラが良心の呵責に苛まれることが少なく口に入れることができるのを知っているのだろう。
ガレベーラが何より優先させるべきを、自分の腹具合よりも教会の子どもたちのひもじさであることを知っているのだ。
「あと、麦が少しあるので持っていきなさい。大丈夫、うちの分はしっかりとありますから遠慮せずに」
「貴重なものをありがとうございます」
ガレベーラは深々と頭を下げる。
「ああ、イオは小川の水車掃除に駆り出されていますよ。見かけたら声をかけてあげてくださいな」
「はい」
林檎をズボンのポケットに入れながら、昔、甘く煮て、小麦と焼く菓子が大好きだったことを思い出す。
この辺りで砂糖は大変貴重なものなので、甘い菓子が食べられるのは、例えば結婚など祝い事のときだけだ。
逆に、王都では貴重で高級品だった林檎が、この地方ではこうして貧しい人間の口さえ入るほどに余りあったりする。
「もし飛べるなら、王都に今すぐ行って、これを食べさせてあげたい……」
帰り道、ガレベーラは空を仰ぎながら思わず呟いた。
ここと王都は、馬車を使っても五日かかるほどに遠いらしい。
王都に二人を迎えに行くことはいまだ叶わずにいた。
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