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教会からの丘を下ると、小川のほとりで見知った顔を見つけ、「イオ」と声をかけた。
「ギー! 教会からの帰りか?」
「うん。林檎をもらったから」
「どうせなら、もっといい物をもらえよ」
ガレベーラはイオの軽口に笑う。
イオも孤児だ。かつて、教会で養ってもらっていたらしいが、数年前に仕事をもらえる年齢になると教会を出て、今はその親方の家に住み込んでいる。
実際は少し年下だが、イオはガレベーラのことを同い年くらいだと思っていて、『ギー』の唯一の友達だった。
「ご苦労様。水、冷たいだろ? 風邪ひかないように」
「心配すんな! お前こそな。そろそろ冷えてくる時期だぞ。お前ん家、寒いんだから」
村での暮らしになれてきたころ、ガレベーラも教会を出た。
ちょうど、村の外れの家で人を探していると教えてもらったからだ。
その家は、昔、商売で財を成した家系らしく、派手ではないが貧乏ではない一家だった。
使用人として、掃除と洗濯、そして家畜の世話が仕事で、牛の乳を売った金のうちいくらかを給金としてもらえるという。
その上、住む所まで与えられると言う贅沢な話だった。
教会にこれ以上迷惑をかけずに済むことが、何より嬉しかった。
「じゃ、そろそろ行くよ。……あ、そうだ」
荷車の車輪が回転するかしないかで、ガレベーラは思いだしたように足を止めた。
「今夜、宿屋の仕事がもらえたんだ。なんでも大口のお客さんがあるんだって」
「そうか、よかったな! おやじに給金弾むように言っといてやるよ! ああ、帰り道気をつけろよ。ちゃんとろうそくあるか?」
「なかったらおやじさんにもらうよ」
ガレベーラは今度こそ、帰るために荷車を引き始めた。
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