4.牛飼い姫

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 教会からの丘を下ると、小川のほとりで見知った顔を見つけ、「イオ」と声をかけた。 「ギー! 教会からの帰りか?」 「うん。林檎をもらったから」 「どうせなら、もっといい物をもらえよ」  ガレベーラはイオの軽口に笑う。  イオも孤児だ。かつて、教会で養ってもらっていたらしいが、数年前に仕事をもらえる年齢になると教会を出て、今はその親方の家に住み込んでいる。  実際は少し年下だが、イオはガレベーラのことを同い年くらいだと思っていて、『ギー』の唯一の友達だった。 「ご苦労様。水、冷たいだろ? 風邪ひかないように」 「心配すんな! お前こそな。そろそろ冷えてくる時期だぞ。お前ん家、寒いんだから」  村での暮らしになれてきたころ、ガレベーラも教会を出た。  ちょうど、村の外れの家で人を探していると教えてもらったからだ。  その家は、昔、商売で財を成した家系らしく、派手ではないが貧乏ではない一家だった。  使用人として、掃除と洗濯、そして家畜の世話が仕事で、牛の乳を売った金のうちいくらかを給金としてもらえるという。  その上、住む所まで与えられると言う贅沢な話だった。  教会にこれ以上迷惑をかけずに済むことが、何より嬉しかった。 「じゃ、そろそろ行くよ。……あ、そうだ」  荷車の車輪が回転するかしないかで、ガレベーラは思いだしたように足を止めた。 「今夜、宿屋の仕事がもらえたんだ。なんでも大口のお客さんがあるんだって」 「そうか、よかったな! おやじに給金弾むように言っといてやるよ! ああ、帰り道気をつけろよ。ちゃんとろうそくあるか?」 「なかったらおやじさんにもらうよ」  ガレベーラは今度こそ、帰るために荷車を引き始めた。
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