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晴れない気分で部屋に戻ると、執事が銀のトレーに白い封筒を載せて顔を見せた。
「お嬢様、お手紙が届いております」
見慣れた封蝋に、沈みかけた気持ちが一気に明るくなる。
「グウィディウスからね?」
「さようでございます。よろしゅうございましたな」
「ええ、ありがとう!」
ガレベーラは顔を輝かせ、駆け足でテーブルのペーパーナイフを手に取る。
──親愛なるガレベーラ 変わりはない?
手紙はそう始まっていた。
幼馴染のグウィディウスが海の向こうの帝国に留学して二年になる。
帝国は船で三月、手紙ですら往復するのにゆうに一月はかかるくらい遠い地だ。会うことはもちろん手紙のやりとりすらままならない。
グウィディウスは言葉も水も違う異国の地で苦労もしているだろうが、それ以上にはるかに学びが大きいのは想像に難くない。
なぜなら、グウィディウスからの手紙は毎回、どんな本よりも興奮と驚き、そして感動をガレベーラに与えてくれる。
それにひきかえ、ガレベーラは自分の身に起こる平凡さを嘆きたくなることもあった。だからといって、生活を変えるような冒険は貴族令嬢には許されない。
便せんに口づけると、上質な厚い紙から異国の香りがしたような気がした。
──ガレに似合う男になって帰ってくるから、どうか待っていてほしい。
そう言って旅立っていったグウィディウスの気持ちを応援したい。
ガレベーラは首に下がるペンダントに触れる。
それでも、グウィディウスが傍にいてくれればこの憂鬱な気持ちからも解放されるのではないか、早く帰ってきてほしいと、ガレベーラは利己的とわかりながらそう思わずにいられないのだった。
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