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「ギー! この前の客、騎士団だったって!?」
乳売りの途中で出会ったイオは、ガレベーラを見つけるや興奮気味に言った。
休憩中だと言うので、ガレベーラも荷車を道の脇に寄せて、隣に座る。
「すげえな! なあなあ、騎士様ってどんなだった?」
「どんなって……そうだな、高そうな服を着てたかな」
「俺も見てみたかったなぁ」
宿屋の手伝いをした夜、宿泊の大口の客というのは騎士の集団だった。
この村ではついぞ見たことのない、鮮やかな色合いの制服を着ていた。
たしか、あの制服は地方部隊ではなく、王城直属の団員のはずだ。
イオの話に、ガレベーラの心は少しだけざわついた。
その時に一人の騎士に話しかけられたのだ。
ガレベーラは裏口の井戸で食器を洗っていた。
夏場はいいが、冬場は手が凍る。だんだんつらい季節がやってくるなと思いながら、心は珍しく弾んでいた。
宿屋の主人が、誰かの忘れ物だと言って本をくれたのだ。
村に字を読める人間はほとんどいないので、新聞も見かけないし、店屋にも本など売られていない。もっとも、あったところでガレベーラには高価で手に入れることはできないだろう。
ガレベーラが持っているのはたった一冊だけで、以前、神父が手に入れてきた古本をもらったものだ。それを、全文そらで言えるくらいに何度も繰り返し読んでいた。
新しく読める本は久しぶりだ。
待ちきれず、仕事がひと段落した時間に本を開いたのだ。
その夜は、たくさんろうそくが焚かれて、店の外まで明るかった。
騎士と話をしたのは、字が読めるのか、と尋ねられた、そのたった一言だけだ。
それにも大した返事はせずに、頷いただけ。
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