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「昨日、見たわよ。仕事をさぼって休憩していたでしょう」
ガレベーラが屋敷の掃除をしていると、廊下に立ちはだかる者がいた。
この屋敷の夫婦の娘で、名をカシアという。
年のころはガベレーラよりも三つほど下だ。
おそらく、街中でイオと話をしていたことを言っているのだろう。
「お母さまにいいつけてやるからね」
「申し訳ございません」
ガレベーラは頭を下げる。
「ああ、そうだ。明日は西都で市の出る日だから出かけて、たくさん素敵なものを買うつもりなの。あんたも荷物持ちとしてなら連れて行ってあげてもいいけど」
「今の時期は乳の出る牛がおりますので、私はそれを売りに行かなければなりません。せっかくですがお供はできません」
「なによ。ついてくるならドレスの一つでも買ってやろうかと思ったのに。あ、あんたは男だもの、着れないんだったわね」
ガレベーラは、ため息をつきたくなるのを必死に堪えた。
「失礼します」とカシアをよけて、掃除の手を再開させる。
日々の家事はたいして苦ではない。ただ、屋敷に入るとカシアがいるので憂鬱だった。
『新しいドレスを誂えた』
『新作の帽子を買ってもらった』
『おなかがいっぱいで全部食べられない』
『甘いお菓子をたくさんもらった』
『パーティーで素敵な男性と知り合った』
『西都で一番の金持ちの家の息子と結婚の約束をした』
カシアの自慢話はきりがなく、それ以外にもガレベーラの言動に難癖をつけてくる。
かつての令嬢としての暮らしていたときの着るもの、持ちもの、生活とカシアのそれは比べ物にならないにしても、この村では十分に金持ちの部類である。
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