4.牛飼い姫

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 昔こそ、意地悪な娘ではなかった。  ある時、カシアにガレベーラが実は女であると知られてしまってからは、いいからかいの種になったらしく、顔を見れば嫌味ばかり。 『ギー』は男であるし、かつ使用人である。  身分の違いはわきまえている。同年代の同性として、張り合われても困るのだ。  それでも、苦労も悲しみもないカシアに、うらやましい気持ちがないわけではない。  だから、そんなときはできるだけ楽しいことを考えるようにしていた。    いつか、労働の対価として給金をもらえる仕事に就くこと、住める場所を得ること。  いつか、王都からこの村までの三人分の馬車代を貯めて、ラナンとペルラを迎えにいくこと。  三人で食べ物に困らない暮らしをすること。   たくさん本を読んであげること。  ペルラの髪にかわいい飾りをつけてあげること。  カシアのような派手はドレスはいらないけれど、清潔な生地で服を仕立て、レースをふんだんに縫いつけ、刺繍をめいっぱい刺した洋服を、ラナンとペルラに着せること。  そんなことを考えながら、ガレベーラはひたすらに床をこすり続けた。
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