4.牛飼い姫

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*  どのくらいをかけて帰ってきただろうか。  赤い屋根が見えた時、とてつもなく長い距離を歩いてきたようにも思えたし、あっという間にも思えた。  ガレベーラもグウィディウスも、道中、一言も話さなかった。  荷車のきしむ音と、たまに車輪が砂利を噛む音が聞こえるだけだった。    あとは丘を下るだけの場所まで来ると、荷車を引っ張るのをやめる。グウィディウスもそれに気づき、押す手を離した。  ガレベーラはぺこりと頭を下げた。  顔は見れずにずっと俯いていた。 「どうして? 君の屋敷まで行くよ。ああ、すまない。実は、今朝ここまで来て、君のことを見ていた」  家まで知られていて、しかも、姿を盗み見ていたというのか。  信じられない不躾な行動に、今度は怒りで泣きたくなった。同時に、グウィディウスの優しさであるとも感じた。  相反する、矛盾した想いにガレベーラは心中は混乱するばかりだ。 「ああ、そうだ。ギーは字が読めるんだってね。ちょうど読み終わった本があるんだ。君にあげたいんだけどどうだろう、もらってくれるかな」  ガレベーラはいつかの騎士にしたのと同じように、答えはせずに黙って首を横に振る。 「どうして?」  もう一度首を振った。確かな拒絶を示したかった。  グウィディウスは埒が明かないと思ったのか、話を変えた。 「今、休暇中なんだ。明日までこの村にいる。また、会いにきてもいいかな」  ガレベーラは首を振る事しかできなかったが、グウィディウスがどんな顔をしてそんなことを言うのかが気になって、少しだけ顔をあげた。  切なげにガレベーラを見ていた。  記憶の中にある、たよりなさげだった少年は、立派な青年に成長していた。  背も伸び、体格もずいぶんたくましくなっている。  風に靡く金色の髪と、エメラルドの瞳は涙の後でまだ潤みを帯びている。気品漂う佇まいのなにもかもがガレベーラにはまぶしくて、静かに目を細めた。  
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