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ガレベーラは閂をかける。
イオと話しこんでいるうちに、すっかり暗くなってしまった。
「帰りが遅くなって、イオ、親方に叱られたりしないかな」
火も興さず、ガレベーラはイグサの巻かれた上に、力なく座り込んだ。
「それにしても、疲れたな……」
かまどの火も、ろうそくの明かりもない小屋の中は真っ暗だったが、今夜は月夜なので、風通しのための窓を少し開けると、わずかな明るさが差し込んだ。
イオがパンをくれたので、その包みを拡げた。
腹は減っていたが、食欲はまるでなく、包みをまた閉じる。
グウィディウスがいきなり訪ねてきたことには、疑問しかない。
しかし、その理由をいくら考えても、それに足りる情報をガレベーラが持っているわけがない。
騎士団員として、三年前に逃げ出した罪人を捕まえに来たと言うわけでもなさそうだ。
『ギー』を承知したと言うことは、令嬢ガレベーラを連れ戻すことが目的だとも言えない。
ただ、生死を確認したかっただけかもしれない。
年齢からいっても、グウィディウスはもう結婚しているだろう。
幸せな結婚生活も、かつて婚約まがいの約束をしたガレベーラが生きているのか死んでいるのかがわからないうちは、グウィディウスの目覚めはずっと悪いままだったにちがいない。
たった一言、『僕がガレベーラだ』と言えば、済むのかもしれない。
それが無理でも、グウィディウスの話を素直に聞けば、なんらかの納得も解決も得られるだろう。
それを聞きたくもあり、聞きたくない気持ちもあり、期待と諦めとが次々に浮かんではそれぞれに打ち消しあっている。
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