プロローグ

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「あー! ガレベーラさまだぁ!」  馬の蹄の音を聞きつけて、すでに子どもたちは孤児院の外に出てきていた。  馬車から降りるや、幼い子たちがガレベーラのスカートの周りにまとわりついてくる。 「あなたたち、ガレベーラ様に失礼です。おやめなさい」  子どもたちは毎回のように院長に小言をもらっているが、ガレベーラはこうして迎えてもらえるのは嬉しいので、本音を言えば叱ってやってほしくはない。  まだ通い始めた頃、「あなたたちが触ると汚れるからドレスに触れてはいけません」と院長が孤児たちに言ったときには、ガレベーラは自らの無知を恥ずかしく思ったものだ。それからは地味で質素な服を選んで行くようにはしている。  それでも、子どもたちの目にガレベーラが十分『お姫様』だと映るのは、この階級社会にあっては至極当然のことでしかない。 「ごきげんよう、みんな。元気だった?」 「ガレベーラさま、きょうもとてもきれい!」 「ありがとう。マルゼも今日もとってもかわいいわ」 「ガレベーラ様! 今日の土産は何?」 「クッキーを持ってきたのよ。ああ、慌てないで。たくさんあるから」 「やったあ!」 「社交界の皆様に手伝っていただいて、たくさん刺繍ができたの。お菓子も用意してきたわ」 「まあまあ、ありがとうございます」  院長は申し訳なさそうで、だが、喜ぶ子どもたちの姿に嬉しそうでもある。 「ほんとうにいつも感謝しております」 「父に寄付もお願いしておくわ。夜会が催されれば、わたくしにも寄付金を集められのだけれど。普段は、自由にお金を持たせなもらえないのよ」  ここには孤児が二十人ほど集まって暮らしている。  他にも孤児院と修道院のいくつかを、ガレベーラは月に一度ずつ訪れては、差し入れをしたり、子どもたちに本を読んだり、遊び相手になったりしていた。  子どもたちが喜んでくれるのが嬉しく、それを幸せだと強く感じる。  粗末な服に、瘦せっぽちの子どもたちは、貧しくともその目をきらきらと輝やかせていて、それがどういうわけか、ガレベーラの心になにか希望のようなものを感じさせてくれるのだ。    
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