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ガレベーラは驚いて、身を固くする。
もう一度、今度は明らかな意思を持って戸を叩く音がした。
「ギー、いるかい?」
予想通り、グウィディウスの声だった。
「夜更けにすまない。そのままでいいから、聞いてほしい」
小屋の中で、ガレベーラは息を殺していた。
返事も、かすかな頷きさえもしなかったが、どのみちグウィディウスには見えていない。
「夕方、明日も来るって言って別れたけれど、急用で西都に帰らなくてはいけなくなった。西都には騎士団の視察に来ているんだけど、僕が隊長なんだよ、驚くだろ?」
グウィディウスは続けた。
「近いうちに必ずまた来る。だが、君がまたここから姿を消すようなことがあるなら、僕は、警護の者ならまだしも最悪の場合は監視をつけざるを得ない。それをするには、僕の名と権力にものを言わせることになるだろうね」
「そんな……!」
ガレベーラは声をあげると同時に立ち上がった。
あ、と気づいた時にはもう遅い。
グウィディウスが『ガレベーラの声』だと確認しているようなしばしの間があって、「よかった」と優しい声になる。
「ギー。約束して、勝手にいなくならないと」
「……はい」
ガレベーラは小さく、しかし、はっきりと返事をした。
貴重な国力の浪費を、こんなところにいるガレベーラごときに使われるなどもってのほかだ。
「なにか必要なものはない?」
「……いえ、なにも」
「オーケー。じゃあ、僕は行くよ」
ざり、と砂が鳴った。
戸を開けるよう言われるかと思って警戒していたが杞憂に終わったようだ。
「この辺りは北方ではないのに、夜はかなり冷えるんだね。おやすみ、暖かくして」
家とも部屋とも言えないこの小屋の中が暖かくあるはずはない。
それでも、ここは、今のガレベーラにとって十分に贅沢でこれ以上ない、ありがたい城なのだった。
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