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グウィディウスが去って行ってしばらく経ってから、ガレベーラはそうっと戸を開けた。
すでに闇に慣れている目で、あたりの草むらを探るが人の気配はない。
グウィディウスは言葉通り、ちゃんと立ち去ったようだ。
別れの挨拶のあと、馬を走らせる声が遠くで聞こえたので、まだいたなどということはないと思ったが、今朝、密かに見ていたと言うものだから用心は必要だ。
一歩出て、気づく。
「あ……これ」
小屋の外に置き土産があった。
むき出しの土に敷かれた絹のハンカチの上には、一冊の本と小さな布袋、そしてリボンを巻かれた一輪の花。
ガレベーラはそれを拾い上げた。
この辺りではよく咲いている素朴な花だ。
本当なら薔薇を選びたいところが、こんな田舎村では手に入らなかったのだろう。
袋には硬貨が入っているらしい音がした。ずっしりと重い。
さすがに金貨だということはないだろうが、全てが銅貨であったとしても今のガレベーラには過ぎるほどの大金だ。
この三年で貯めたなけなしの金よりもずっと多い。
これでも、グウィディウスにはガレベーラの尊厳を傷つけないよう最大の配慮をした結果の金銭なのだろう。
ガレベーラは涙も出なかった。
グウィディウスの行為はなにも間違っていない。
ただ、もう遠い人だと思うだけだ。
なぐさめるように、あざ笑うように、天上には恐ろしいまでの数の星が沈黙して、ちっぽけなガレベーラを見つめていた。
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