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「ちょっと! 邪魔よ! どいて!」
廊下の床をブラシでこすっていると、カシアが金切り声をあげ、ガレベーラを押しのけて通り過ぎて行った。
「ぐず! のろま! 私の部屋の掃除は結構よ。ドレスやネックレスを盗られたら困るもの!」
ガレベーラは黙って深く頭を下げた。
「そんな服で騎士様の前に出るなんて恥ずかしくないのかしら? 信じられないわ!」
カシアは、グウィディウスが帰った次の日こそ、宿に泊まっている王都の騎士を見たとガレベーラに興奮気味に自慢してきた。
一張羅を着るのを、これ見よがしに手伝わされ、張り切って出かけものの、グウィディウスはもう出立した後だったとがっかりして帰ってきた。
しかしその後、その騎士がガレベーラと接点あったことを知るや、態度はさらに攻撃的になった。ガレベーラを女と知っているからだ。
「あんたは一生うちの使用人なんだから。家だって与えて住まわせてあげてるのに、勝手に出ていくなんて! 恩をあだで返すつもり!?」
悩みの種はカシアだけではない。
グウィディウスが村に来てからというもの、ガレベーラは暮らしにくくなった。
あることないこと、よくも悪くも色々に噂される日々だ。
さすがに、本来の素性や実は女性であることに、たどり着くような筋のものはなかったが、どれも居心地のいい話ではなかった。
ましてや、男色家の貴族に買われていくとの誤解は、「男でも構わない」という輩の、これまで、男ならせずにすむと思っていた身の危険にもさらされるようになってしまった。
安全を守るには心もとない小屋は、イオが補強してくれたし、イオが泊まりこんでくれたこともあった。
噂を逆手にとって、「実はものすごく強い護衛が密かにギーについている」との神父の方便もあって、そのうちに怖い思いをすることは少なくなっていった。
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