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「はあ、冷たい」
冬になり、朝が辛い時期になった。
グウィディウスが来たのは、秋になるかならないかの頃だったので、かれこれ三月ほど前になる。
ガレベーラはグウィディウスの迎えが来ないことにほっとはしていたが、だんだんと時が経つにつれて、変な意地など張らずに素直に話をすればよかったと思いなおしていた。
ラナンとペルラはグウィディウスに縁を繋げることができたのか。
トーロ夫人の助力くらいは得られただろうか。
あの階段下に誰か人をやってもらって、二人の様子を知ることができないだろうか。
せめて、手紙をことづけることくらいは許されたのではなかっただろうか。
虫のいい考えばかりが浮かんだあとは、決まって思考はどんどん暗い方へ向かう。
ラナンとペルラの存在を、もしグウィディウスが知っていたら、きっとささいなことでも教えてくれていただろう。
そもそも、あの時は必死のあまり、縋った藁だったにしても、王子であるグウィディウスに浮浪児の保護を頼むなんてどうかしていた。
その身分差も含め、グウィディウスは、ガレベーラの貧しさや惨めさを目の当たりにして、大きな衝撃を受けたには違いない。
グウィディウスは上流階級のなかのさらに最上位にいる人だ。
王都に住む中流階級の人間とですら一生交わることもない。
ガレベーラの現状にがっかりしたことは違いないし、少なからずかかわりがあったことさえ不愉快に思ったかもしれない。
だとしたら、やはり最後までギーであり通したのは正解だった、と思う。
グウィディウスがくれた本は、剣術の指南書のような本で、ガレベーラには何のおもしろみもなかったが、それでももう三度は読んだ。
しおりが挟んであったところを見ると、読んでいる途中だったのかもしれない。
────騎士団に入るなんて、なぜ。
「……陛下もアルディウスも、安泰ではないということなの?」
ガレベーラはため息をつく。
「ここにいると、王国のことは何もわからない。治世か乱世かさえ伝わってこないわ……」
村の人たちにとって、国の中枢などなんの興味もない、遠い遠い雲上の世界の話なのだ。
税や制度、物流や人の流れはここにもあるのだから全くの関わりがないことなどないと説明したところで、理解してもらえないだろう。
知識と教養がないからだ。
ガレベーラは、時間のある時に教会にいる子どもたちに字を教えている。
イオが一緒に習うこともある。
全土が豊かになるには、教育を施すことが必要なのだ。
子どもたちが当然に、平等に、教育を受けられるように。
グウィディウスに、せめてそんな理想を託せばよかったと後悔した。
この国を作る一番近いところにいる人だったのに。
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