4.牛飼い姫

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「あのオヤジ、隊商が来た日から毎晩、ギーのことを色目で見てたんだぜ」 「全然気づかなかったよ。助けてくれてありがとう」 「今夜は、教会に泊めてもらおう。あの小屋じゃ蹴破られたらおしまいだ」 「平気だよ。昨日までもなんともなかったし」 「ばあか。ギーにその気がないのを隊商長もわかっただろうから、逃げられないうちにって、夜の間に無理やり攫って商品にされちまうぞ」  イオがきつく言うので、教会に行くと、神父は喜んで迎えてくれた。  毛布を借りて、イオと二人、神の前で休む。  イオはすぐにいびきをかいて眠りこけてしまったが、ガレベーラはなかなか眠れなかった。  祈りをささげていると、神父が顔をのぞかせた。 「……この世界に、生きていていい場所を見つけることは、こんなにも辛く、苦しいことなのでしょうか」 「ギー」 「いつも、どこにいても、わたしは災いのもとでしかありません」  言いながら、涙が出てきた。   「……平穏な生活を望むことすら、もはや許されないのでしょうか」  ガレベーラの垂れたこうべを神父が優しく撫ででくれる。 「ギー、大丈夫ですか」 「神父様……お許しください。もう楽になりたい……」 「辛いのは、あなたが行く道の途中だからです。あなたの場所に、まだたどり着いていないからです」  ガレベーラの道は、どこまで続いているのだろう。  たどり着けば、そこに安住はあるのだろうか。 「誰しも皆、人生の目的の地に行かなくてはならない。それは、あなたの隠れた心の意志であり、同時に神の意志でもあるのですから。その時は、導かれるままに行くのですよ」  神父に頭を撫でられているうちに、いつの間にか眠っていたらしい。  どれくらい経ったか。  有事のときの勢いで近づいてくる馬の蹄の音に、ガレベーラは目が覚めた。
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