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「失礼いたします」
すぐに、十三、四の少女がやってきた。
まるで洗練されていないそのいで立ちから、地元の、この宿の本物の小間使いかもしれない。
ガレベーラは、もしかするとグウィディウスが、例えば王城の侍女や城仕えの女性を連れてきているのかもしれないと思ったのだが。
「お客さま、湯あみなさいますか?」
「迷惑ではなければ、ぜひお願いしたいのですが」
「では、ご用意します」
素朴な少女は、すでにグウィディウスから事情でも聞いているのか、ガレベーラのみすぼらしい身なりにも、男の格好の人間が女の声で答えたことにも驚くことはなかった。
「……あの、わたしも手伝います」
「え!? いえ、大丈夫です! 仕事ですから」
ガレベーラは少女と、手伝う手伝わないで押し問答を繰り返した結果、一階の部屋で湯を使うことで折り合いをつけた。
三階まで大量の湯を運ぶなど大変だし、なによりガレベーラがそれにふさわしい身分でなくなってからずいぶん経つ。
される側でなくなって、もう長いのだ。
大きな木桶になみなみと張られた湯につかるのは何年かぶりだった。
リビでは女であることを隠していたので、村の風呂屋にも行けなかった。
昔は、イオが親方に小遣いをもらうたびによく誘われたものだ。断っているうちに、今では「風呂嫌いのギー」とかわかられる種になっている。
夏はこっそりと川で水を浴びることも多かったが、冬は、イオが作ってくれたかまどで湯を沸かし、身体を拭いたり、手桶に足をつけたりするのがやっとだった。
あまりの心地よさと緊張の緩みで、自然と涙があふれてくる。
もはや、ガレベーラは我慢しなかった。
あえて何も考えないことにして、しばらくの間、溢れ出る涙をただただ、体を包む湯の中の一滴として溶かしていった。
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