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小間使いの少女は、着替えの服を置いて行った。
それは、王都に乱れ咲くような極彩色ではなく、野山のもので染色した色合いの、ワンピースとエプロンだった。
上質な生地ではないが、誰かの着古しというわけではない。
しかし、グウィディウスと同席するには最低限の、恥じずにいられるドレスといえる。
「本当はズボンの方がいいんだけれど……なんて、贅沢な悩みね」
ついさっきまで着ていた服を畳む。
何度も、何度も洗って、それでも汚く、粗末な服。
またこれを着ることになるかもしれないし、ならなかったとしても、こんなものですら、教会の子どもたちが大きくなった時にまた用立てられるのだ。
鏡を見る勇気はなかったが、鏡台に並ぶ櫛には手を伸ばしてみた。
短い切りっぱなしの短い髪に、何年かぶりの櫛を通すと、気持ちが少しばかり浮き立ったのは、失くしたつもりになっていた心を思い出したからだろうか。
部屋に戻ると、見計らったように扉が叩かれた。
「ギー? 入ってもいいかな」
ガレベーラがドアを開けると、グウィディウスの嬉しそうな顔があった。
「ああ、着てくれたんだね。さて、僕のセンスはどうだったかな」
「ご用意下さってありがとうございます。グウィディウス様に失礼がないよう、遠慮なく着させて頂きました」
「よしてくれよ、そんな話し方」
とたんに、グウィディウスは無理に笑顔を作ろうとしてか、妙な歪んでいた。
その表情に、ガレベーラは胸が痛くなった。
「……承知しました」
深く頭を下げて、
「身分をわきまえぬ振舞いとは重々承知しておりますが、昔のよしみでお許しください」
そこまで言って、顔をあげる。
「グウィディウス、しばらくぶりね」
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