5.領主

4/21
前へ
/105ページ
次へ
 小間使いの少女は、着替えの服を置いて行った。  それは、王都に乱れ咲くような極彩色ではなく、野山のもので染色した色合いの、ワンピースとエプロンだった。  上質な生地ではないが、誰かの着古しというわけではない。  しかし、グウィディウスと同席するには最低限の、恥じずにいられるドレスといえる。 「本当はズボンの方がいいんだけれど……なんて、贅沢な悩みね」  ついさっきまで着ていた服を畳む。  何度も、何度も洗って、それでも汚く、粗末な服。  またこれを着ることになるかもしれないし、ならなかったとしても、こんなものですら、教会の子どもたちが大きくなった時にまた用立てられるのだ。  鏡を見る勇気はなかったが、鏡台に並ぶ櫛には手を伸ばしてみた。  短い切りっぱなしの短い髪に、何年かぶりの櫛を通すと、気持ちが少しばかり浮き立ったのは、失くしたつもりになっていた心を思い出したからだろうか。  部屋に戻ると、見計らったように扉が叩かれた。 「ギー? 入ってもいいかな」  ガレベーラがドアを開けると、グウィディウスの嬉しそうな顔があった。 「ああ、着てくれたんだね。さて、僕のセンスはどうだったかな」 「ご用意下さってありがとうございます。グウィディウス様に失礼がないよう、遠慮なく着させて頂きました」 「よしてくれよ、そんな話し方」  とたんに、グウィディウスは無理に笑顔を作ろうとしてか、妙な歪んでいた。  その表情に、ガレベーラは胸が痛くなった。 「……承知しました」  深く頭を下げて、 「身分をわきまえぬ振舞いとは重々承知しておりますが、昔のよしみでお許しください」  そこまで言って、顔をあげる。 「グウィディウス、しばらくぶりね」
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

269人が本棚に入れています
本棚に追加