269人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕が業を煮やして帰国したのは、君が北行きの馬車から逃げ出して、すでに半年以上が経っていた。それまでは大陸から手紙で、兄上と側近に君を探すように頼んでいた」
しかし、事態はグウィディウスの想像以上に悪化の一途を辿り、アルディウスの、ガレベーラを側妃候補として登城させるという機転も裏目に出るばかりだった。
「君の行方は全く分からなくなってしまった。だから、少々無茶を言って、近衛の兵を借りて、城下の捜索をした。それを、君は追手だと勘違いしたんだね? 君はまた王都を追われることになった」
「……つまりあの時、街で一斉にカトル家の姫を探していたのは、あなたの捜索の手だったと言う事?」
「ああ、そうだったみたいだ」
「そうとは知らず……わたくしは……ああ、ごめんなさい」
グウィディウスはゆっくり首を振る。
「いや、僕が自ら探しに行けばこんなことにはならなかった」
「無理よ。グウィは大陸にいたのだもの! それに、王子殿下があんな場所に足を運んでいいわけが……もしかして、行ったの?」
「階段下の家のこと? ああ、行ったよ」
とたんにガレベーラは恥ずかしくなった。
恥じることではない。
実際に、あの場所で立派に生きている人たちがいるのだし、むしろ、ガレベーラは恥じてはいけないのだ。あの場所があったからこそ生きながらえたのだから。
「でも、そうだね。僕は王子だから、城下の貧困街にはなかなか近づかせてもらえなかった。あの階段下に行ったのはずいぶん後になってからだ。それでも、帰国してからはずいぶん城下を探し歩いたよ。そうして、売られた見事な銀の髪を見つけたんだ」
「髪……わたくしの……?」
グウィディウスは優しいとも悲しいとも言える微笑みで、ゆっくりと頷いた。
「売られた君の髪を見た時の、僕の気持ちは表現しえない。喜びと悲しみ、憐みと憤りと、もう何もかもがごちゃまぜの、おそらく誰にも想像できないだろう感情だ。それでも喜びが他のどれよりもほんの少し多かったよ。なんせ、君の手がかりを得たのだから」
しかし、喜んだのは一瞬で、そこから先、捜索はまた暗礁に乗り上げた、とグウィディウスはまるで今がその時かのように項垂れた。
────そして、語り始めた。
最初のコメントを投稿しよう!