5.領主

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「ガレベーラの髪に間違いない……」  グウィディウスは、リボンで束ねられた一房の髪を手に取った。  滅多とない輝く銀の絹糸のようなそれに、見覚えがないわけがない。 『銀の髪の令嬢』は見つからないが、『銀の髪』なら売られているとの情報を得て、駆けつけたのは王都のはずれの労働階級向けの洋品店だった。  店の主人は、次々に集まってきた明らかに身分の高い紳士たちに、おろおろとしている。 「この髪の持ち主は、わからないとのことでございます」  そう報告した近衛の兵の前に出て、店主に尋ねた。 「……これを、売ったのは……どんな女性だったんだ!?」  青ざめた顔をしたグウィディウスは、震える声で、だが、きつい口調になってしまった。  混乱していた。 「こ、こ、これを持って来たのは同業のやつです! 貴族の屋敷から貧困街まで、いろんなものを集めてくるやつで! ス、スラムで手に入れたと聞きました!」 「その男を探しておりますが見つかっておりません」 「あっしのところにも、たまにふらっとやってくるくらいで、どこの誰とも……」  城に帰る馬車の中で、グウィディウスは考え込んでいた。 「売った、ということは、それで金を得たということになる。つまり、生きることを放棄していないはずだ。ガレベーラはきっと、生きるために売ったのだ」 「だとよろしいのですが……。恐れながら、最悪の場合も考えられます」  同乗していたペスロが遠慮がちに、しかし、毅然と言った。 「考えたくはない」  グウィディウスは首を振る。  ガレベーラの意向ではない場合。許可なしに髪を下ろされ、売られた場合だ。生死にかかわらず。  その状況は想像することさえ、おぞましく、吐き気に襲われる。 「お前も見ただろう。美しく切り揃っていた。あれは彼女の意志だ」  グウィディウスは、店から髪を買い取った。  今は、絹の布に大切に包んである。  洋品店の主人の言葉を、思い返えす。 「……スラム、か」 「なりませんよ、殿下」  眉をしかめたペスロがぴしゃりと言う。 「貧困街に行かれる王子など、どこにおられましょうか。城下までは、なんとかお許し申し上げておりますが、その頻度はご身分を考えれば、ありえないこと。もはや、お忍びの域を超えております」 「ペスロには感謝している。それに、お前が、人を使って探してくれているのも知っている」
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