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「ガレベーラの髪に間違いない……」
グウィディウスは、リボンで束ねられた一房の髪を手に取った。
滅多とない輝く銀の絹糸のようなそれに、見覚えがないわけがない。
『銀の髪の令嬢』は見つからないが、『銀の髪』なら売られているとの情報を得て、駆けつけたのは王都のはずれの労働階級向けの洋品店だった。
店の主人は、次々に集まってきた明らかに身分の高い紳士たちに、おろおろとしている。
「この髪の持ち主は、わからないとのことでございます」
そう報告した近衛の兵の前に出て、店主に尋ねた。
「……これを、売ったのは……どんな女性だったんだ!?」
青ざめた顔をしたグウィディウスは、震える声で、だが、きつい口調になってしまった。
混乱していた。
「こ、こ、これを持って来たのは同業のやつです! 貴族の屋敷から貧困街まで、いろんなものを集めてくるやつで! ス、スラムで手に入れたと聞きました!」
「その男を探しておりますが見つかっておりません」
「あっしのところにも、たまにふらっとやってくるくらいで、どこの誰とも……」
城に帰る馬車の中で、グウィディウスは考え込んでいた。
「売った、ということは、それで金を得たということになる。つまり、生きることを放棄していないはずだ。ガレベーラはきっと、生きるために売ったのだ」
「だとよろしいのですが……。恐れながら、最悪の場合も考えられます」
同乗していたペスロが遠慮がちに、しかし、毅然と言った。
「考えたくはない」
グウィディウスは首を振る。
ガレベーラの意向ではない場合。許可なしに髪を下ろされ、売られた場合だ。生死にかかわらず。
その状況は想像することさえ、おぞましく、吐き気に襲われる。
「お前も見ただろう。美しく切り揃っていた。あれは彼女の意志だ」
グウィディウスは、店から髪を買い取った。
今は、絹の布に大切に包んである。
洋品店の主人の言葉を、思い返えす。
「……スラム、か」
「なりませんよ、殿下」
眉をしかめたペスロがぴしゃりと言う。
「貧困街に行かれる王子など、どこにおられましょうか。城下までは、なんとかお許し申し上げておりますが、その頻度はご身分を考えれば、ありえないこと。もはや、お忍びの域を超えております」
「ペスロには感謝している。それに、お前が、人を使って探してくれているのも知っている」
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