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「恐れながら」
グウィディウスを見据えるペスロの目が怖い。
「そもそも、ガレベーラ嬢が貧困街でお暮しになられているとでも? 殿下は実情をご存じないのです。まともな人が暮らせる環境ではございません」
「王都から出る全方面の乗合馬車や関所、近隣の集落もしらみつぶしに調べたが、何一つ手がかりはなかった。まだ王都にいる可能性がある。街中を探し終えた今、手がかりがあるとすれば、残る貧困街だけだ。捜索隊の誰もそこを探してはいない。誰も近づこうとしないからね」
路上で生活する者を、貴族と言わず中流階級以上の人間は、同じ人とみなしていない。
だから、話しかけることはおろか口をきくこともない。
その差別意識も問題なのだが、貧困を招く王政こそ問題視しなければならない。それは、留学で学んだことだったが、今のグウィディウスには、その課題に向き合い、解決する余裕はないのだった。
「やはり騎士団に入ろうかな」
「ガレベーラ様のために、でございますか」
「ああ、入団すれば、今よりはもう少し自由に動けるだろう。師団に配属されれば地方にも行ける。徹底的に探すことができるだろう」
ペスロは深いため息をついた。
「王国の領土中を徹底的にとなりますと、長い年月が必要ですね」
「いつか旅行記でも書こう」
「それ以上に、騎士団ともなると多大なご苦労が伴うかと思いますが。近頃の鍛錬により、留学なさる以前よりは殿下もたくましくおなりですが、元来、殿下は剣術がお嫌いなのですよ? それに、陛下やアルディウス殿下がなんとおっしゃいますか……」
「それは平気だよ。次男だもの。王位継承の厄介者払いができて、逆にほっとするかもしれないよ」
そして、グウィディウスは王室の反対を押し切って、騎士団に入った。
ガレベーラを探すために。
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