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「髪を売るのを手伝った老婆は見つかったが、その時、ガレベーラが連れていたという女児のことはわからないままだ」
「いつぞや聞いた、幼い兄妹と暮らしていらっしゃった話とは繋がっているのでしょうか」
「わからない。花売り娘だったとか、娼婦になったとか、皆、褒美目当てで適当なことばかり言う」
グウィディウスは、がしがしと髪をかきむしった。
貧困街で上流階級の人間が話しかけようものなら、物乞いやゆすりたかりの者ばかりが集まってきて、ろくに話にならないのだ。
「しかし……。あの時のグウィディウス様のお顔ときたら。私は一生忘れませんよ。まあ、娼館一斉改めができたと、陛下と騎士団に感謝されたましたしね。結果論ですが」
ペスロのからかいを受けたグウィディウスはきまり悪い顔になったが、やがて真面目な面持ちで深いため息をついた。
国の政り事に興味はないが、娼館含め、この国の底辺部分を知るにつけ、なんとかせねばと思う現実ばかりだ。
「だれかの話にもし真実があるとすれば、彼女はとんでもなく愛おしい令嬢だ。ガレベーラならこの隊舎のひどい共同生活も、大陸へ渡る船の劣悪さだって苦にしないだろう。まったく、自慢の姫だよ。負けそうだ」
「……ご苦労なされたことでしょうね」
「ああ、僕は一生かけて労うつもりだ。だから、どうか」
その先はあえて口には出さなかった。
心の中で、生きていてほしい、とグウィディウスは目を閉じて願った。
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