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第一王子のアルディウスがいる限り、グウィディウスには当然、王位継承の確たる約束はない。
ましてや、生母の後ろ盾がなき今、その将来は貴族の子息よりも不安定で危ういものであったから、留学は、王位に頼らない身の振り方を探しあぐねていた彼の光明だったのだろう。
第二王子という、多少の自由を大目に見てもらえる立場を利用し、グウィディウスは帝国への留学資格を得た。
選抜試験は王子という身分を隠しての受験で、見事合格だったという。
「女性のために夢をあきらめたり、与えられた幸運を逃してしまう殿方などがっかりですわ」
「だから私はがっかりされたのかな」
「すでに王太子妃がいらっしゃるお方が、めったなことおっしゃらないで下さいませ」
王太子妃に一番近い姫と言われ、実際に望まれていたのはガレベーラだったが、アウディウスもガレベーラもそうは落ち着こうとしなかった。
「ガレは昔からそうだ。私に冷たい。グウィには優しいのに」
「あら、殿下もわたくしにはいつも意地悪でしたわ」
「それを慰めたのがグウィディウスだったのだから本末転倒だ。だが、あれを支えられるのもガレベーラしかいないよ。ただ、もしもグウィが異国の地から帰ってこぬようなことがあれば、その時は嫁き遅れになる前に俺が迎えてやってもいい」
「まあ、お優しくなられたのですわね、殿下。お情け、覚えておきますけれども、縁起の悪い例えは仰らないで下さいませ」
からかうように笑うアウディウスに冗談めいた返しをしてから、ガレベーラは人知れずそっと胸元に光るペンダントに触れた。
女性の結婚適齢期と言われる十七はとっくに過ぎ、ガレベーラはもう二十歳だ。
グウィディウスは三つも年下で、さらには期限が最低三年と定められている留学から帰るのは早くても来年のこと。
それでも、ガレベーラは待つと決めているのだ。
秘密の口づけとともに、『待っていてほしい』と言われたから。
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