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そんな折だった。
隊務を終えたグウィディウスが部屋に戻ると、事務方の人間が手紙が届けにきた。
「なんと。トーロ夫人、でございますか?」
同室のペトロが不思議そうな顔をしている。
「これは予想外な方だな」
「なんの御用で。まさか、あの夫人に限って夜会や茶会の誘いではございませんでしょうし」
「急ぎ知らせたいことがあるらしい……」
王城に上がるには憚る事情があるので、ご足労願えればありがたいとのことだ。
「……グウィディウス様、馬車の手配をいたしましょうか?」
「ああ、そうだな。頼む」
未亡人とはいえ、たいして親しくもない貴婦人の屋敷に赴くには憚る時間だったが、何時でも、と文面にあったので、すぐに向かうことにした。
トーロ夫人は、社交界でも『異質』というのが、グウィディウスの評価だった。
歴史のある名家だが、質実で厳格という印象がある。
性格ゆえなのか、あまり人と集わず、夜会でもめったに見かけない。
「そういえば、ガレベーラが開いていたなんとかの会にも、誘っても来ないと言っていたな」
永遠に失われることなどないと信じて疑わなかったガレベーラの日常が、大陸に届いていた日のことを思い出す。
それは、もはや遠い誰かの人生のようだった。
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