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トーロ夫人は続けた。
「そして、ある時、メイドがこの子たちに『グウィディウス様はお戻りですか』と聞かれたと申しましたの」
「私の名を?」
「ええ。けれど、その時はなにも不思議に思いませんでしたのよ。この国の王子であるあなたのご尊名を、何者が存じ上げていてもおかしくありませんから」
トーロ夫人の屋敷のメイドは、それからも季節に一度くらいの頻度でグウィディウスの帰国を尋ねられたと言う。
そして、グウィディウスが国に帰ってからはじめて、二人が屋敷に顔を見せたのが昨日のことだそうだ。
「メイドはようやく二人に『殿下はお帰りですよ』と言いました。すると、二人がどうしたとお思いになられます?」
「……さて。君たちはどうしたんだい?」
グウィディウスは少し遠い少年にたずねたが、答えたのはトーロ夫人だった。
「驚くことに、この服に着替えてきたのですよ。働いたお金を貯めていたそうです。この日のために、安くで譲ってもらったと」
トーロ夫人は言いながらまなじりをそっと抑え、少年の背に手を添えた。
それに、勇気づけられたように、少年は一歩前へ出て、
「はじめてお目にかかります。僕はラナン、こっちは妹のペルラです」
正しい姿勢で頭を下げる。
「やあ、はじめまして。僕がグウィディウスだよ。申し出てくれたこと、感謝する。是非、君たちの話を聞きたい」
「ガレとは街で会いました。行くところがないと言うから、一緒に暮らしました。ガレは僕たちに字や計算を教えてくれました」
「お花の、つくりかたも……おしえて、くだしゃいました」
いつの間にか泣き出していたペルラは、しゃくりあげながら言った。
「……そうか」
「毎日身体を拭くことや身ぎれいにすること、マナーや言葉遣いも。髪を売って、僕たちに靴を買ってくれました」
「おひめさまみたいな、きれいなかみの毛……だった……でした」
「……ガレ、は今は一緒にいないんだね? どこへ行ったの?」
「貴族がたくさんでガレを探しに来たときに、この街から逃がしたんです。人買いの馬車に紛れ込ませて」
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