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「ラナンから聞いた人買いの馬車が、南へ向かったことがわかって、ここ数年は南を中心に調べていた。けれど、長い間、何の手がかりも得られなかった。リビの村で君を見つけたのは本当に偶然だし、親友の……君に話しかけた騎士がいただろう? あいつの手柄だ」
「ねえ、グウィ……、どうして騎士団に」
「もちろん、君を探すためだよ」
「それでも……! 近衛ではなく? 騎士団は……危険な外地に行けなくてはいけないのに」
「外地に行ける方が都合がよかったんだ。それに、小さい頃から城の中ばかりで、今さらまた城を守るなんて飽き飽きだよ。第一、王城や王族を守る近衛のなかに王子がいるなんておかしな話、聞いたことがある?」
グウィディウスは笑った。ガレベーラは笑えない。
「でも、あなたは剣が嫌いだった。それに、留学までしたのに……」
「それがね、意外なんだ。ガレベーラのことを抜きにしても、騎士団は案外居心地がよくて、僕は今をかなり気に入ってるんだよ。今では剣の腕もなかなかのものだしね」
幼い頃から、剣術の指南役は常に騎士団の団長であった。
今の団長にしても、留学前までさんざん悪態をつきながら稽古を受けていた師である。
グウィディウスが剣の道に本気になるや、他者との差は自然と開きだした。
もちろん、寝る間を惜しんで努力もした結果だが。
「……ええ、そうね。隊長を任されるくらいですもの」
「まあ、そこは王子であることを多大に斟酌してもらってはいるけれどね」
「わたくしは、あなたの人生を……何度狂わせれば済むのかしら」
ガレベーラは声を殺して泣いた。
自らを責めているのが痛いほどに伝わってくる泣き方だった。
「……だから、君はギーであるふりをしたの?」
「そうよ。もう関わってはいけないと思ったの。ガラベーラはもう生きていない方がいいと思った。けれど、この前、後になってとても後悔したの。せっかくこんなところまで探しに来てくれたのに、と」
グウィディウスは椅子から立ちあがり、ガレベーラの傍らに膝をついた。
慌てて、ガレベーラが立ち上がる。
「やめて、身分が……」
「ガレベーラこそ、やめてくれ。身分で人に差をつけるのはおかしいと思っている君こそがそんなことを言っていいのか」
ガレベーラは二の句を告げず、言葉に詰まった。
「最初に言っておくけれど、これはガレベーラが責任を感じることではないからね」
グウィディウスはそっと、ガレベーラの手を取った。
傷や荒れが目立つ、労働者の手だ。
遠慮がちに引こうとするガレベーラの仕草が、それを恥ずかしいと思っていることを意味している。
「僕は、王籍を離脱した」
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