5.領主

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「ガレ……、王都に帰ろう」  グウィディウスの腕に開放を求めて、ガレベーラはゆっくりを首を振った。 「ありがとう。でも、帰るところなんてない。もう、わたくしは、泥水を飲んでしまった。令嬢には戻れない」 「そんなことはない! それに……、王都にいる兄妹を迎えに行くために、ギーは頑張っていたと聞いた。二人に会いたいくはないの?」  少しだけガレベーラの気持ちが揺れる。  それでも、王都はもはや遠い夢のような場所だ。  リビでの暮らしは、ラナンやペルラのためであったことは確かだが、今になって思うと、二人の存在は幻のように儚くもあった。馬車で迎えに行くことも共に暮らすことも、現実的には手に届かないとはわかっていた。 「……あの子たちが今、あなたのもとで健やかであるなら、もう十分すぎるわ」  グウィディウスは軽くため息をついた。 「わかった。君がそれほどにリビが好きで、リビの村に残りたいというのなら、僕も移住しよう」 「グウィディウス!?」 「騎士団もやめて、村で仕事を探すよ。僕みたいな者に、働ける場所があるかどうかわからないけれど」 「ばかなことを言わないで!」 「……それとも、階級社会ってやつは、ギーを労働力として、僕に買わせることもできる。……そんな真似をしても?」 「ひどい……」  その時、扉が叩かれ、「グウィディウス様」と外からペスロの控えめな声がかかる。  グウィディウスは小さく悪態をつくと、長い瞬きをした。  それまで感情的だったグウィディウスの顔が、いつもの表情に戻った。   「ガレベーラ、悪いんだけれど、今日の僕はあまり時間がない。実は、王都を飛び出してきたようなものなんだ」  ガレベーラは、そこでようやく気づく。   「……もしかして隊商の?」 「ああ。間に合ってよかった。神父様とイオに、ガレベーラに何かあれば知らせるように頼んでいた。気を悪くしないでほしい。それに、人を雇って、定期的に君の様子を見に行かせていたことも」 「そう……。神父さまも、ご存じなのね。わたくしのこと……」 「すまない。けれど、詳しい素性までは伝えていないよ」 「いいえ。心配をかけていたのね。むしろ、謝らないといけないのはわたくしだわ」 「謝ることなどない。……でも、ガレが王都に来てくれると、正直、安心出来るよ」  急がなければならないというので、グウィディウスとは西都で別れることになった。  別の部下と共に先に王都へ戻り、ガレベーラはまた、ペスロの馬でリビに送ってもらう。 「やっぱりやけるな。少しだけれどね」  グウィディウスは苦笑まじりに言った。  ガレベーラは、昔もグウィディウスの側にいたペスロの存在を思い出していた。どこかの貴族の子息だったはずだ。  帰り道も、ペスロとの間に会話はなかった。  しかし、リビでガレベーラを馬から降ろすと、 「グウィディウス様は、本当に、文字通り、寝る間も惜しんで、あなた様をお探しになられていました……」    そう言い残して、また遠い王都へ戻っていった。
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