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ペスロに馬を降ろしてもらったところは教会だった。
夜明けの前にここを発ち、そして今、長い一日が終わろうとしている。
「ギー、おかえりなさい」
神父が迎えてくれる。
そこには、イオの姿もあった。
今朝まで着ていた服は持って帰ってきたが着替えてはいない。女の格好のまま帰ってきた。
イオは、少し照れ臭そうに笑って、
「お前が女だって知ってたってば! 途中からだけどな!」
「……騙していてごめん」
「いいって。なんかわけがあるんだろうなーって思ってたさ」
神父とイオとガレベーラで囲んだ食卓は、いつもより豪華だった。
言われるまでもない。グウィディウスの施しがあったのだろう。
これだけ残って大人の口にも入るということは、子どもたちは十分に腹を満たせたはずだ。
心から、ありがたく思う。
グウィディウスのおかげだが、これまでは、いつの日か教会に恩を返したいと思うことしかできなかったからだ。
「で、いつ行くんだ? あの騎士さんと行くんだろ?」
「え?」
ガレベーラの驚いた顔を見て、神父は手にしていたパンを置いた。
「ギー、迷っているのですか」
「……はい」
「何を迷うんだよ!?」
イオが大きな声で言った。
「あなたは、このままリビにいて何をしたいのですか?」
「何を……と言われても、今までどおりに自分の仕事をして……」
「では、あなたは、このままリビにいて何ができますか」
ガレベーラは言葉に詰まる。
与えられた仕事はあれど、建設的な何かがあるかといえばない。
「屋敷のことなら、今日、ここのチビたちが一緒に手伝ったぜ」
「神父様、そうなんですか」
「ええ、そうですね。もう働いてもおかしくない年の子どももいますし。いい機会でした」
「……そうですか」
「ギー、人にはできることとできないことがあります。神は平等でありながら、不平等でもある。どれほど夢や才能、意欲があろうとも、可能性のない人間には資格も機会も与えられない」
神父の言葉に、ガレベーラは顔をあげた。
「あなたにしか花を咲かせることのできない畑があるのではありませんか」
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