第三話  倍返しの法則

55/58
79人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
 確かアイツは、あの毒虫が「もうすぐ蛹になって冬眠する」とか、言っていた気がする。  「そのために、処女の血がいる」  「用意して欲しい」と、言っていたような。  「オンナの血なら何ても良いだろう」と、聞いたマイク・ウッドに。  「処女以外のオンナの血を与えると、毒虫がとんでもないモノに変化する」、と言っていたような気もするのだが。  「一つだけ、確認することがある」、蒼くなったマイク・ウッドは、リズが既婚者かどうかをデービス検事に聞いた。  「当たり前だろう、中年の既婚者だよ」  聞えてきた答えを充分に把握するよりも早く。彼の胸元でも何かがモソモソと這いずる気配を感じた。  ハッとして、シャツを脱ぎ捨てる。  彼が最後に見たのは、彼の胸を這う金色の大きな幼虫だった。胸をつたう幼虫の吐く金色の糸が彼の口から入り込んだ。  意識がかすみ、バッタリと倒れた彼の身体を金色の糸が包み込む。まるで大きな蚕の蛹だ。  マイク・ウッドの身体だった物体から、苦しそうな呻き声が聞えてくるが、助けに来るものなど何処にもいない。  やがて金色の蛹から、呻き声が途絶えた。  その十分後。  デービス検事は部屋のドアをノックした。だが、部屋の中にいるはずのマイクから返答がない。  不審に思ったデービス検事が、ホテルのフロントに連絡を入れた。  ホテルマンに鍵を開けさせると、一人で部屋の中に入っていったデービス検事だったが。部屋には誰もいなかった。  「マイク・ウッドがいないぞ」、ホテルマンと一緒にホテル中を捜索したが、見つけることはできなかった。  仕方なく、再び裁判所に戻った。  アイラ判事から、リズ・アリッサムの不審な死に対して、説明を求める出頭命令が出ているのだ。  何気なく控室を覗いたデービス検事が、控室の真ん中に転がる金色の繭を見付けたのは偶然だった。大きさはトランクサイズだが、何が入っているのか分からない不審な物体だ。  銃を抜くと、近寄ってしげしげと観察。  その時だった。  繭がパックリと割れて、金色の幼虫が出てきた。  大きさは公聴会で見た時のままだ。  ホッと安心した次の瞬間だった。  虫が変化した。  大きさが十倍ほどに膨らみ、大量の金色の糸をデービス検事に向かって吐き出した。デービス検事の身体に絡みついた金色の糸が、口の中に入って来て・・意識が飛んだ。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!