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2・
彼の身体から、魂が飛び出す。
幼虫の背中が割れ、黒いアゲハ蝶のような大きな羽が伸びて出ると。そのままマイク・ウッドの魂とデービス検事の魂を咥え、空高く飛び上がった。
金色の輝となって何処までも飛翔していく。
やがて時空の狭間を飛び超えた金蚕蠱は、渦巻く時空の嵐の中に吸い込まれていった。
その数分後。デービス検事の控室で見つかったのは、外傷もなく、ただ意識だけが戻らないマイク・ウッドと、デービス検事の身体だった。
救急車が呼ばれ、トロントの病院に救急搬送されていくのを、アイラ判事とゴードン弁護士が見送った。
「ご先祖様の霊が、厳恒星様を護った。そう言う事でしょうかねぇ」、アイラ判事が呟く。
「どういう意味ですかな?」
ゴードン弁護士が聞き返した。
「清朝が始まった頃ですかね。ウチのご先祖様が、厳家のご先祖に命を助けられたという言い伝えが、我が家にはありましてね」
【いつか回り逢ったら、その男に恩を返せ】と、アイラ判事のご先祖様が言い残したのだとか。
「もう三百年以上も昔の話ですよ」、フッと笑った。
「なるほどねぇ」、相づちを打っておいたが、ゴードン弁護士は半信半疑。
「とにかく、この事件は幕引き。告発者が意識不明の重体ではねぇ~」
まだサインする書類が山のように残っていると言って、アイラ判事は呼びに来た事務官と一緒に裁判所の執務室に戻って行った。
さて・・ここらで、羽化した金蚕蠱に咥えられたマイク・ウッドと、デービス検事の魂に話しを戻そう。
二人の魂は、暗黒の時空の狭間で金蚕蠱に吐き出された。真っ暗闇のなかを、何処までも落ちていく。
行き着く先が何処なのかもしれない闇の中で、デービス検事の魂がマイク・ウッドの魂に咬みついた。
「この昆虫は、何だ?」
「解らんッ」、マイク・ウッドの魂が苛立たし気に叫んだ。
「何処で拾って来たんだッ」
デービス検事の魂が、激しい勢いで反撃。だが返事を返す間もなく。
「ウヲォ~」、悲鳴を上げると、マイク・ウッドの魂がいきなり真っ黒な雲に吸い込まれた。
堕ちて行く先が何処なのかもわからない、暗闇に吸い込まれていく。
「マイクッ」
デービス検事の魂が、マイク・ウッドの魂に精一杯手を伸ばしたが間に合わなかった。
真黒いの闇にデービス検事の魂は一人っきりになり、恐ろしさで震えが来た。錐もみ状態に陥ると、そのまま別の黒い雲に吸い込まれていく。
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