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お嬢様は我が道を進みます
執事が地の世界から戻ると、チエリーはツインテールに黒のドレス姿に戻っており、お気に入りの赤薔薇に包まれたテラスにある椅子に座り、ボーっと遠くを眺めていた。
「お嬢様、見合いを放棄して良かったのですか?」
「いいのよ。言ったでしょ?わたくしは自分より弱い男には興味ないの。相手が弱いと夫婦喧嘩した時に張り合いがないじゃない」
チエリーの話を聞いて執事はクスッと笑う。チエリーらしい理由だ。
「お嬢様の聖女の演技、とても良かったですよ」
「当然よ、わたくしにやれない事はないわ」
そう言ってチエリーは執事が入れてくれた黒茶をごくごく飲み干す。飲み干してカップをテーブルに置いた後、何故かチエリーの目からは涙が流れていた。
「お嬢……様?」
「……王子と話をするのが楽しかった。あんなに優しくわたくしに接してくれる人なんて初めてだったわ。でも王子は『聖女』のわたくしだから優しくしてくれたのよね」
執事は珍しく元気のないチエリーの隣に座り、チエリーを強引に自分の胸に引き寄せる。
「な、何!?」
「失礼ながらお嬢様が落ち着くまで、私の胸をお貸し致します。それに私はやはりいつもの強気なお嬢様の方が良いと思います」
執事は優しい眼差しでチエリーを見つめ、チエリーは恥ずかしそうに執事の胸に顔を埋める。
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