一粒の雨

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 彼岸の最終日。  五年前に病気で亡くなった娘のお墓の花の水を変えるために訪れた。 「もう、五年も経っちゃうのね……」  落ち葉を片付けるためにお墓の前でしゃがみ込んだ時、小さなお墓の近くに何かが落ちているのに気付いた。 「昨日は掃除した時は無かったのに……。誰かの落とし物かしら?」 落ち葉に紛れて落ちていた薄汚れている赤い紐のような何かを拾い上げると、チリンという綺麗な音を奏でた。  小さな鈴のついた赤い首輪。 「……そういえば、あの子が可愛がっていた白猫がいた気がするわね。家にいたはずなのに……。一年前くらいから姿が見えないのよね。元々野良猫だから、あまり気に留めてなかったけど……。どこに行ったのかしら?」  落ち葉を片付け花の水を変えた後、小さな首輪を持ち帰り、幼い笑顔の娘の写真の隣にそれを置いて静かに手を合わせた。  頬に生温かいものが一筋、流れていくのを感じながら……。
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