一粒の雨

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 山奥にある小さな村。周りをどれだけ見渡しても、背の高い木々が密集している風景の上の空が乗っかっているだけ。足元には細い道で区切られた田畑が広がっている。  肌寒い風が、縁側で丸まって寝ていた私を優しく起こす。まだ少し眠たいと訴えかけてくる体を思いっきり伸ばしながら欠伸をし、そのまま座り込んだ。ぼんやりしていると台所の方から美味しそうな香りが漂ってきて、自然とジッとそちらを見てしまう。その誘惑に負けそうになりながらも私は夜の雰囲気を含んだ夕焼けが田畑を燃やしているような家の外へと飛び出した。  田畑を区切る細い道を迷うことなく走り続ける。道と田畑の境目に隙間なく咲いている彼岸花は、夕焼けによってさらに色を濃くし、影を伸ばしていた。いつもなら遊び場にしている田畑や、私を見かけると必ず声をかけてくれる村の人たちの家々に立ち寄る事なく、村の北東にある約束の地を目指した。  落ち葉で彩られた石の階段を駆け上がっていく。時々階段の途中で足を止め、振り返りながら木々の隙間から赤く燃えている村を見る。  急がないと……。  夕焼けとは真反対のような場所にある真っ暗な階段の頂上を目指し、私は急ぎ足で暗闇の中へと歩みを進めた。 境内に入ると中央に小さな社があり、その右側には竹林に囲まれたお墓たちが石灯篭から漏れ出る微かな光によって幻想的な空間を作り出していた。このお墓を横切りさらに奥へと続く道があり、道の終着点には寺院跡がある。  線香の香りが鼻につく。  村とは違い、多くの木々や竹に囲まれているここでは、もうすっかり辺りが暗くなっているような感じがする。  社も村の人たちが当番を決め管理しているここでは、こんな時間に人などいるわけもない。この薄暗い空間に私一人。 「ニャー」  か細い声もここでは嫌に大きく聞こえる。  夕焼けが沈みきったのか、そろそろ沈みきるのか……。月明りも届かないこの場所では、石灯篭からの明かりしか光がなくなった。 「……ニャー」  階段に座り込んでいるうちに少しずつ体が冷えていき、寂しさのあまり無意識に声が漏れた。  しかし、それが合図だったかと思わせるようなタイミングで風が吹き、竹の葉が祭事の時の人々のように騒ぎ出す。それと同時に竹林の方から笛や太鼓の音が聞こえてきた。楽器の音や歌声は徐々に大きさを増していき、得たいの知れない集団となってお墓の方から姿を表わした。その集団はゆっくりと少しずつ私の方へと近付いてきた。きょりが近くなればなるほど、何故か落ち着かない感じがして、ソワソワを手足を動かした。それでも、私はその集団から逃げることはせず、顔だけを集団の方へと向け、階段の隅に座り続けていた。
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