【 第6話: コップの中の氷 】

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【 第6話: コップの中の氷 】

「はい、ジュース」 『カタン、カラン、カラン……』  お兄ちゃんが、氷の入ったオレンジジュースをテーブルの上に置いてくれる。 「ありがとう、お兄ちゃん」  お兄ちゃんは、私の座っている小さなテーブルの斜め横に、胡坐(あぐら)をかいて座る。 「若菜、早かったな」 「うん、朝一番の新幹線に乗ってきた」  氷で冷たくなったコップを両手で包むように触れると、その涼を手の平から感じた。 「そうか、そんなに早く来なくても良かったんだけどな」  お兄ちゃんはそう言ったけど、4ヶ月会えなかった気持ちが抑えきれなかったんだ。 「だって、お兄ちゃんと早く会いたかったんだもん……」  私が恥らいながらそう言うと、お兄ちゃんはちょっとビックリしているよう。 「そ、そうか……。じゃあ、夕方までお兄ちゃんが夏休みの宿題を見てやるよ」 「それは、後でいい。それよりも、お兄ちゃんに夕方まで東京観光に連れて行ってほしい」 「東京観光?」 「ダメ……?」  私はお兄ちゃんの方を向き、上目遣いでお兄ちゃんの瞳を見つめながらお願いしてみる。 「あっ、いや。いいよ……。そうだよな、せっかく東京に来たんだもんな。勉強だけして帰るのもな。じゃあ、東京観光するか!」 「うん! やったぁーっ! うれしい! お兄ちゃん大好き!」  そう言いながら、勇気を振り絞って、昔みたいにおにいちゃんに抱き付いた。  本当は、すごく胸がドキドキして、張り裂けそうだった……。  以前よりも体が一段と大きくなり、(たくま)しくなっているお兄ちゃん。  抱き付いたお兄ちゃんの肩越しからは、懐かしい心落ち着く爽やかな香りがふわっと香ってくる。  お兄ちゃんのこの匂いが好き……。  部屋の中でふたりきり、くっついたまま、一瞬時が止まったような気がした。 『カラン……』  ガラスのコップの中にある氷が揺れ、音を立てて時を再び動かす。  ふたりはゆっくりと体を離してゆく。  お兄ちゃんはすごく照れてたけど、私を昔のように、やさしく受け入れてくれた。  それがとっても  嬉しかったんだ……。
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