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分厚い経典を携えた神官様が呼んでいる。
天気雨のように光を透かす銀髪、瞳は静かな湖畔の青、何よりも微笑を絶やさない顔は愛情で溢れている。
その胸元に光る水晶の欠片は、きっと大事なものなのだ。王都から来た人が、『水晶の聖者』と呼んでいて、本当は偉い人なのだろう。
祈りの時間だ。遊んでいた皆は立ち上がって、一斉に駆け出した。
……少女たちが教会に入ったのを確認すると、神官はふと空を仰いだ。
「女神エルガーテ、この子らの将来に光を与えたまえ」
聖衣のような永遠の色をした青空が、どこまでも広がっている。
剣の刃よりも、透き通る強さを持った水晶だ。剣が砕けたのは、これを生むためだったに違いない、嘘偽りなき本当の自分の心を。
春風に乗った草の匂いを、青年神官は思う存分吸い込む。ようやく見つけた、穏やかな居場所だ。
幸福を胸に、レナスは水晶に手を当て恒久の平和を祈った。
<了>
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