第一章 刺客

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第一章 刺客

 朝日が闇を払い、大海を思わせる澄んだ青空が草原に戻った。盛りを迎えた花々が、旅人の足元で揺れた。野宿するには過ごしやすい季節だ。  暗褐色のローブで身を包むのは、旅人が巡礼者だからだろうか。  しかし木に繋いだ青毛の馬は、血統のよさそうな体躯をしている。深くフードを被ってはいたが、均等の取れた姿からしかるべき身分の男だと透けて見える。  男は、草を食む馬を横目に、岩の上に腰かけて朝食を始めた。  質素な乾パンと干した果実、それにビスラという香草茶である。  幾つもの薬効があるビスラは、長旅の疲れにも効く。  女神の名を冠したこのエルガーテ王国でも、王都でしか手に入らないものだ。
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