第六章 葛藤

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第六章 葛藤

「神官フィル。聖衣を盗ませ、国を裏切る罪は重いぞ」  水晶の剣がひとりでに宙に浮く。そして、鳥のように素早く主の手に戻った。いにしえの装飾を施した鞘から、レナスが剣を抜くと、月光を受けて水晶の刃が光った。 「ま、待ってくれ、これには深い事情が……」  自分の生きた倍以上の年の男が、涙ながらに訴える。  悪を滅せよ、邪なる者に粛清を。剣はレナスの手の中で執拗に促すが、迷いが生じた。  その時、舟が大きく揺れた。船が動き出したのだ。  急速に波止場が遠ざかっていく。陸では、叫ぶ母子の姿があった。
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